恵比寿・カレーライス協会 |カレーを求めて歩くこと15分。厚さ20cmの扉を開ければそこは異空間

毎月一度、我が身に訪れる”欲”が幾つかある。
焼肉欲、タイ料理欲、そしてカレー欲。
焼肉に関しては都合をわかってるふたご三百屋を利用することで納めているし、タイ料理欲はまだ紹介していないが定期的に原宿のChao!Chao!bamboo(チャオチャオバンブー)で事無きを得ている。

そして問題はカレーだ。
アカマル(中目黒)トリサンジェルマン(代々木)は言わずもがな選択肢の一つにはあるし、行って損なし・間違いなしであることは一目瞭然。
しかしね、諸君。
一皿大体1,000円以内で収まるカレーだ。(高くても2,000円は滅多にいかないだろう)
まだ一つのところに決めにかかるには少し早すぎやしないかい。
と、例によって主人とまた新たな探訪を始めることとなった。

あ、先に言っときますがこの話、お酒出て来ません。
そういう意味では番外編でしたね…!


恵比寿駅から歩くこと15分。
アメリカ橋の喧騒がなくなったころに、躊躇なく現れる重厚な扉がひとつ。
入り口の袖にそこまで大きくなく掲げられた、”カレーライス協会”がそこにはあった。
厚さ20cmはあろうその扉を開ける。繊細な彫りの装飾が施されたそれは相当な年季もので、何がすごいかって一枚板。相当なお値打ちがするに違いない。

さあ、まずはこれを見てほしい。


これはあくまでも内装の一部に過ぎない。
入店してすぐに目に付くはこういった調度品の数々。
絵、古本、彫刻、織物、青銅器…。
美術館や学校の教科書でしかみたことがないようなものばかりがひしめき合っている。

そして12畳くらいの店内の真ん中には5〜6人がけの大テーブルがひとつ。
奥には厨房があるようで、そこへ向かって恐る恐る歩く。
中には白髪のオーナーらしき人が一人。
二人です、と伝えるとテーブルで待っててくれと言われる。

そう、ここでは何も注文はしない。
メニューはただ一つ、カレーセットのみなのである。
その内容は、カレー・野菜盛り・ヨーグルト・フルーツ・チャイで1,500円。
あたりをキョロキョロと眺め、待つこと10分。まずは色鮮やかな大盛り野菜の登場だ。


”まだ、食べないでね”

そう一言残し、そそそと厨房へ戻るオーナーさん。
そして出てきたカレー。いわゆる黒系カレーだ。


具材は全て溶け込んだかのように、スープ状になっていて、こんもり盛られたごはんと相対する静けさを保つカレー。
スパイスらしき香りがツンと鼻をつき、一口含めば舌に残るザラつき。
美味しい。

さあ、これをこの野菜とどうやって食べるのか。
好きな野菜をフォークでピックアップし、カレーにつけて、ご飯といただく。
この時に野菜をスプーンでピックアップすると、スープ(煮汁)も一緒についてくるからカレーが薄くなってしまう。そこはオーナーさんに注意された。
野菜は塩で薄くシンプルに煮られてるようで、とにかく彩り豊か。そして量も多い。
最後に残った野菜から滲みでたスープがまた美味しい。いわゆるこれが”野菜本来の味”なのであろう。

カレーが足りなくなってきたら追加してあげるからね、と優しい口調のオーナーさん。
食べている様子をたまにのぞきに来て、その按配を見てくれているようだ。


変わった店内、一つしかないメニュー、出てこないオーナーさんと三拍子揃えば少し構えるのも仕方はなかろう。
しかしこの店は間違いない良店である。
ただし一歩踏み入れた瞬間、そこは”カレーライス協会”。
そこではその協会ルールに沿いながら楽しもうではないか!
うまくアシストしていただきながら、ゆったりと美味しく楽しむことができるでしょう。

ここはお店のつくりの関係上、5人しか入店を許されない。
大人数で伺おうものならお断りをされるようである。おそらく、提供レベルを落とさないため、食べるのを急かしたくない、などの理由があるのだろう。

さて、ここからが後日談。
美味しくカレーを頂いたあと、ふともろもろの調度品についてお尋ねしてみる。
実はこのオーナーさん、いわゆる古物商をしてらした方で、その筋ではかなり有名な方のようだ。
アフリカやアジア、ヨーロッパから様々に買い付けては日本に戻り商っていらっしゃった。
その際の、歴史ある価値あるものだけを取り揃え、お店の内装としているらしい。
ちなみに店のドアからそれは始まっている。やはりただのドアじゃなかった。

そんな話しをしていたら、結果4時間も滞在してしまった。
カレーを食べたのが1時間もないとして、3時間もずーっとしゃべくりあっていたことになる。
いろんなものを見せてくれたし、あ、そうそう。ここで使われている野菜がいかに優れたものかがわかる小話がひとつある。
その食卓の中央に、レモンが輪になって並べてある。
それぞれ、色がくすんで縮んでしまっているものもあれば、昨日買ったような状態のものもある。

”これ、10年前にかったレモンだよ。”
と、そのうちの一つをカットしてくれた。
外見はカサッカサだったレモンが、中身はまだまだ果汁で満たされていた。

”農薬って怖いよね。こんなんばっかだ、今の野菜”
そう行ってそそくさとそれを捨てる。
これらレモンは、そういう皮肉を込めて置かれているのだ。

どうですか、多分この記事を読んでいる人は、ちょっと興味がそそられるけどどうなんだろう、と思っている人が多いのではないでしょうか。
この記事を読んで、ちょっとでもなんだか良さそうねと思った人は行くべし食べるべし。
決して癖がない店ではない。私も簡単に友に紹介をする気はない。
それでも好きになる人ひとにとってはたまらない店だということはお分かりいただけたと思う。

是非!向かうなら十分な時間と、100%の空腹を持ってして伺うようにしてほしい。(量は半端ない)
そして寡黙にカレーの到着を待ち、その新鮮で安全な食事を十分に楽しみ、歴史ある素晴らしい調度品を愛でながらお店を後にしよう。
また行きます、堀江さん!
ありがとうございました。

恵比寿|カレーライス協会
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